ジェミパラ・
トラッセンダの冒険
『琥珀化救難奇談』
古代遺跡発掘異聞コンテンツ100回目記念

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古代魔法の脅威

 | 2026/10/14

発端

襲われる発掘施設

  • 異変の始まり
    それが起きたのは、私、つまりジェミパラ・トラッセンダが、ちょうど Details要素の調査報告を終え、じゃあ、次は Dialog APIに取り掛かるか、お茶にしようか決めかねている時だった。
    甘ったるい松脂のようなにおいが漂ってきて、それまで微かに震えていた発掘作業の進捗を示す針がいつのまにか止まっていた。
    ふっと顔を上げると辺り一面が琥珀色に浸食され始め、いままさに私の身体も琥珀色に覆われようとしていた。
    これはまずい!
    すぐさま緊急警報のボタンへ指を這わせた!

現状
把握

調査施設全体を覆う異変

  • 琥珀の中の水疱
    警報は結局鳴らなかった。たとえ、鳴ったとしても誰の耳にも届かなかっただろう。
    私が異変に気づき、警報ボタンを押した時にはすでに研究施設は機能を停止していたようだ。

    室内は琥珀色に変わっている。窓の外も琥珀色に染まっている。松脂のような匂いもする。何が起きた!
    外を確認するため自室の扉を開け、外へ出た。
    私の研究室の外側は、すぐに広大な発掘現場となっているため、かなり遠くも確認できる。

    私は報告書や論文の執筆中は常に結界を張っている。
    外部の物理的な音・騒音というか歪を遮断するためだ。
    その結界の境界はいつもは目に見えることはないが、この特殊な状況下では、まるで琥珀の中の水疱のようにはっきりと結界の壁が認識できた。

    目に入る結界の壁の外側は異様な光景だった、全ての景色が...目に入るもの全てが琥珀に覆われている。
    全てのものが...半径100mのドーム状の施設とスタッフたちすべてが停止していた。
    この発掘施設は三角形を1単位とした柱をドーム状に組み上げている。そこを透明なガラス状のシートで覆っている。そのため日中は非常に明るい。
    それが今は琥珀色に染まっている。

    琥珀に閉じ込められている。
    いつもは発掘品として扱う琥珀だが、まさに発掘者自身が琥珀の中に閉じ込められるとは、笑うに笑えない。

    彼らは無事なのか?塗り固められているようだが、呼吸をしているようにはみえない。
    第一感は、彼らは生きている。しかし、何らかの作用で不活性状態にある。
    まずはこの琥珀状の物質の分析だ。
    そしてこの不活性化の解除だ。
    この施設のスタッフは総勢36人。なんとしても彼らを救わねば。

    gemiparas_barrier

    1. まるで琥珀の中の水疱のようにはっきりと結界の壁が認識できた。

現状
分析

異変の分析

  • 琥珀状物質の分析
    空間探知術式を展開してみたが、結界の外を探知することはできなかった。
    どうやら見える範囲では、活動しているのは私だけのようだ。
    琥珀色に染まってはいても、かなり遠くまで見ることができる。
    普通に見える景色に軽く琥珀色が付いた程度だ。

    すでに話したが、この発掘現場は全体を半径100mの半球体で囲っている。
    その中を各研究用の施設や生活スペース用として、同じドーム状の構造体を設置している。
    発掘現場は4区画に分けてそれぞれ発掘している。
    スタッフは全部で36名だ。私を入れると37名。
    私の場合はちょっと特殊で、4区画の内の小振りの一つだけを一人で調査している。

    私の結界は私を中心に半径約10Mの球体。その中に私の研究室の一部が含まれている。
    私の研究室といっても簡易的な構造体だ、発掘の振動なんてダイレクトに伝わる。
    対振動結界でも張らないと執筆なんてやってられないわけだ。

    明かりは窓以外にも屋根の一部を透明にし、外光を取り入れている。
    球体状の結界の外は琥珀だ。
    そのため、今は外からの光も琥珀を通して射しているため全体が黄金色に輝いている。
    最初、自分の身体が琥珀に覆われていると勘違いしたのはこの琥珀色の光のせいだ。
    状況が違えばとても美しいと感じたかもしれない。
    しかし、そんなことを考えてる場合ではない。
    まず、この琥珀状の物質の分析だ。

    gemiparas_lab

    1. 私の研究室といっても簡易的な構造体だ

ジェミパラの状態

  • 孤立するジェミパラ
    結界のおかげで琥珀化にとらわれるのは免れたが、周りが全て琥珀化しているため結界の外にでるのが困難になった。
    私が張っている結界だが、執筆用のゆるい結界だ。
    主に大気の振動を遮断する。振動を遮断することで発掘作業時の騒音を遮断している。
    もちろん、すべての物質は量子レベルで振動しているため、すべての振動を遮断しているわけではない。
    必要な空気や匂い、思念、人間の構成要素など、つまり害のない物質は許可しているわけだ。

    そのため物質や粒子の移動は遮断されない。自由に行き来できる。
    そうでないと呼吸ができなくなって死んでしまうからね(笑)。
    スタッフも自由に出入りできる、というか結界に気づきもしてないだろう。一応部屋が防音だと伝えてあるけどね。
  • 生きるために必要なもの
    しかし現状、結界の周りがすべて琥珀化されているため、大気の流入は止まっている。
    ちょうど、海底の気泡の様なものだ。
    つまり、気泡の内部の空気があと何時間もつのかが、気になる。
    ざっと計算したところ、CO₂濃度を考慮しても1月以上は問題ない。
    最悪の場合でも空気循環術式という方法もある。

    なのでまずは水と食料。特に水は大事だ。紅茶が飲めなくなるのはさみしい。
    さすがの私でも無から水や食料を作り出すことは不可能だ。
    召喚魔法も何がどこにあるか座標が不明では召喚は難しい。
    それでも水と食料は2週間は大丈夫だ。

    と思ったんだが、そんなに楽観視できないぞ。
  • 枯渇する魔素
    つまり魔素だ、魔素の問題がある。
    これが最も重要だ。今、結界を維持できているのは魔素のおかげ。この魔素は大気中に存在する。
    魔素もこの気泡内に存在するだけだ。枯渇したら、結界を維持できなくなる。
    そうなったら、琥珀化してしまう。
    これもざっと計算すると活動できるのは三日ほどか...。たった三日...。
    三日を過ぎるともう自由に動けない、救難活動すらできなくなってまう。
    この三日を使って、外部へ脱出する方法を探すか、それともこの琥珀化の根源を探し、琥珀化を解除するか。
    どちらにしても、まずこの琥珀状の現象を解析する必要がある。

ひとすじの光明

  • なぜ琥珀化を免れたのか
    まず、なぜ、私は琥珀化を免れたのか?
    それは結界を張っていたからなのは明らかだ。
    では結界の何が琥珀化を防いだのか。
    もちろん振動だ。
    たとえば、物質の振動を量子レベルで複製し、その位相を反転させて干渉させれば振動はゼロになる。
    簡単にいえば、1 - 1 = 0 の様な感じだ。
    つまり、物質が振動しなくなれば、それは時空を含めて不活性な状態になる。
    文字にすると簡単だが、実際は物質の振動は無限に複雑だ。不可能に近い。
    それをこの琥珀化はやってのけている可能性がある。
    今のとこ、これは単なる推論のため、実際に確認する必要がある。
  • 琥珀化とはどういう状態なのか
    琥珀化状態の物質はどうなるのか。
    琥珀に閉じ込められた物質はどうなるのか。
    分析するため琥珀の一部を切り出せるか試してみることにした。
    まず、壁に隣接するように30センチくらいの立方体状に座標を固定した。
    琥珀内の気泡の内側を四角くほんのちょっと切り取った状態だ。
    その内部を奥行30センチまで、結界を解除する。
    するとみるみるキューブ内の大気が琥珀化し始めた。
    さっきまで何もない空間だった所がまるで琥珀色の氷のようになった。
  • 琥珀を量子レベルで観察
    キューブ内の琥珀化した大気を私の超弦幻視で観察してみる。
    物質は静止しているように見えても、その内部では原子や分子、魔素が振動し、量子的な状態も絶えず変化している。
    物質の最小単位を1次元のエネルギーのひも(弦)と仮定すればひもの振動の仕方やパターンで電子やクォークなどの素粒子や重力子、魔素として区別される。
    私の超弦幻視はこのひもの振動の仕方やパターン、量子の状態変化を観測する魔法具だ。

    ところが...、ひもの振動を観測できない。

    ひもの振動を観測できないということは、量子的に振動していないということだ。
    通常、物質は量子的なスケールで時間とともに変化する、時間発展状態だ。
    これはひもの振動と数式の上でも物理的な意味の上でもまったく同じだ。
    しかしこの琥珀状態の物質は振動していない。
    つまり、琥珀内の量子の時間発展と状態変化が全て固定されている。時空が固定されている状態だ。
    しかも魔素ですら振動していない!これは予想外だった。

    魔素が活性化していないと、私の術式は、いやすべての術式は作用しない。付与することもできない。
    つまり、この琥珀は魔法を遮断し、空間どころか、時空までもを固定しているということになる。
    これには良い面と悪い面がある。
    悪い面はもちろん、魔素を活性化させないと術式を付与できない。これはかなり大変だ。魔素を大量に消費してしまいそうだ。

    良い面は...、たとえば、空間のみが固定さていれば生物は時間の経過とともに細胞が消耗し朽ち果ててしまう。
    が、魔素を含んだ時空を固定してあれば、時間は進まない。
    生物の細胞も腐敗しない。つまり生命自体も不活性な状態なだけで、解除すれば元に戻る。

    よかった、みんな無事だ。
    いや、まだ無事じゃないけど、でも無事なんだよ。

新たな
決意

救難の決意

  • 新たな試練
    今の時点ではどうすれば不活性状態を解除できるか不明だが、
    正しい術式で、位相に干渉している振動波を取り除けば、元の活性状態に戻すことが可能と考えられる。
    そのためには琥珀化状態の物質の魔素を活性化させる必要がある。

    新たに1辺が30cmくらいのキューブ状の空間を準備し、その中にリンゴを配置した。
    ここに琥珀を流し込み、このリンゴを解除できるか実験してみる。
    このキューブの結界を解除した。
    さきほどと同じく、リンゴも一緒にみるみる琥珀化した。
    体感だと、およそ20秒か。
    さっそく、キューブに流れ込んでいる琥珀を解除できるか試してみた。
    正しい術式が不明なので私の超弦操術式を総動員だ。

    やはり、正しい術式が不明だとうまく元に戻せない。
    琥珀がリンゴと一緒にボロボロに崩れてしまった。
    ううむ、これは正しい方法で解除しないと、助かる命も助からない。
  • さらに琥珀を分析
    今は気泡の壁のようになっている結界の壁だが、
    その気泡の壁を観察していると、場所により琥珀の揺らぎが発生しているところがある。
    光が干渉してきらきらと輝いている。
    気泡の外側のすでに琥珀化している発掘現場には琥珀や光の揺らぎはないが、私の結界は気泡のように大気を閉じ込めている。
    その気泡の壁の場所により琥珀の揺らぎ・つまり光のゆらぎが、岩場の波打ち際の波しぶきの様な姿に見える個所がある。
  • 琥珀の性質
    さらに壁をもっと注意深く観察すると、うねりが徐々に大きくなりそして徐々に小さくなるという規則性があった。
    この揺らぎそのものは琥珀化しようとする力とそれに抵抗する結界の力が激しく反応しているための歪と考えられる。
    混じりあってるわけではないが、そのようにも見える。
    そしてゆらぎの規則性は力の方向を示している。
    船や飛行機などが進行すると機体の後方に気流の乱れが発生するが、ちょうどそんな感じで一定方向に対して琥珀が揺らいでいるのを確認する。

    つまり...、この琥珀化には方向性がある。
    ちょうどビッグバンから世界が誕生したように、この方向性の先に波の基点、波源があるはずだ。
    そして、そこにこそ今回の琥珀化の因子・原因がある。

    つまりこの琥珀化状態を解除するには波源にたどり着く必要がある。

    fig2-4

    1. 琥珀の揺らぎイメージ図
    琥珀の揺らぎを強調して図示化 分速1mなので実際はそれほど大きくはない

  • 琥珀化の速度
    琥珀化がビッグバンのように広がっているとすれば、その進行速度は?
    さっそく琥珀の揺らぎの速度を計測すると分かったのは、1分間に1m、1日だと約1.5kmの速度で琥珀化が進行していることだった。
    前のリンゴの実験でも同じ結果がでている。
    つまり、今この瞬間も琥珀化は進行している。
    外側からみれば、この根源までの距離が一日に約1.5㎞、離れていってる。
    この発掘施設はその性格上、人々の生活圏から最低10kmは隔離してある。
    私の活動限界は3日だとして、3日の間は人々へ災厄が振りかかることはない、これは安心材料だ。

    もちろん、今、外側がどういったことになっているのか全く不明だ。
    しかし、魔法省が広がる災厄を食い止めることはまず不可能だろう。原因がわからないのだから。
    ましてや魔法省のどんなに優秀な魔道師であっても、外部からこの施設へ、琥珀を解除しながら何キロメートルも侵入し、原因を突き止め琥珀化を解除するのは、ほとんど不可能に思える。
    このまま放って置くと約20年でこの惑星を琥珀化してしまう。
    ここにいる私が、波源に一番近い私が、今食い止めないと、本当にそうなってしまう。
    これはさらに恐ろしい発見だ。

琥珀化
救難

琥珀攻略

  • 新たな術式
    万物躁振術式(ばんぶつそうしんじゅつしき)を使って、ようやく琥珀化状態の大気の魔素を、活性化させられるようになった
    リンゴの実験では大気も一緒に崩れたが、今は魔素のおかげで大気だけは完全に元に戻すことに成功した。
    琥珀化状態の物質を元に戻すためには、対象物の位相を量子レベルでまったく同じに複製し、再度干渉させる必要がある。
    つまり現状 1-1=0 の状態の物質の振動を、さらに1-1+1=1にするわけだ。
    大気などの単純な組成の分子はなんとか複製できるが、やはり生命体の量子の位相はあまりにも複雑すぎる。

    これとは別に、救難対策として、私の対振動結界から振動制御術式をより深く錬成し、対量子振動波術式を考案した。
    ちなみに対量子振動波術式というカッコいい名前は、私が今、命名した。

    琥珀は触ると不活性化状態になるため、対量子振動波術式を練った防護服だと触ることができる。
    触ってみると琥珀は不思議な感触だった。力を込めて押すと微妙にへこむが、手を離せば、何事もなかったかのように元の形へ戻る。
    いちおう、この琥珀状の状態にも名前をつけた。琥珀型硬質弾性体だ。
  • 新たな問題
    キューブと同じように、この結界の外側の琥珀型硬質弾性体も戻せるか試してみた。
    周りの壁の1m四方の一角に対して、奥行1mで万物躁振術式(ばんぶつそうしんじゅつしき)を展開する。
    こちらもいったん大気に戻るものの、また、ゆっくりと琥珀状態に戻ってしまう。これもやはり分速1mだ。
    やはり何らかの結界状の物で敷居を作る必要がある。

    実は琥珀化から元に戻した大気も魔素を含んでいる。
    なのでその大気が含む魔素も使えるようになるはずだ。
    とはいううものの一石二鳥?とはいかない。大気を琥珀化から戻すのに必要な魔素の方が大量に消費する。
    使える割合はだいたいたぶん7割程度だ。

    それと魔素にはいろいろ種類がある。特に私が研究室でいつも使ってる魔素は練度が高いので術式が練りやすい。復元したばかりの大気中の魔素はかなり抵抗が強く、魔素も通りにくい。
    つまり魔素の枯渇問題はまだまだ解決していない。

    枯渇する前に波源へいかないと...。
    しかし...、この琥珀型硬質弾性体の海をどうやって波の波源まで移動するか。
  • 琥珀状態の移動手段
    ある程度、波源の方向は推察できた。
    あとはどうやってそこまで行くか。

    私の考案した対量子振動波術式であれば、琥珀化を遮断できる。
    つまりこの対量子振動波術式を練りこんだチューブ状のトンネルを用意すればいいんじゃないかな。

    このチューブ状のトンネルを結界の壁にピッタリくっつけて、
    壁の反対側の琥珀状態の大気を万物躁振術式(ばんぶつそうしんじゅつしき)で活性化させる。
    と同時に、琥珀に戻る前にこの対量子振動波術式チューブをねじ込む。て、これでうまくいくんじゃない?
    うん、いいね。いいね。
    よし、じゃあこの術式をトンネル工事式琥珀化波源発掘術と名付けよう。
    名前を付けるのは私の悪い癖だな。(笑)

    さあて、いくか。の前に紅茶を飲ませてくれ(汗)

救難
への道

いざ救難

  • 根源への道
    琥珀化がはじまったのは、だいたい朝の7時くらいだったか。
    今は昼過ぎ2時くらい...。
    できれば明るいうちに源流までたどり着きたい。
    現状、魔素はこの気泡の空間内にあるだけだ。
    何が起きるかわからないので、灯りなどに魔素を消費するのは避けたい。
    私は万物躁振術式(ばんぶつそうしんじゅつしき)を活性化させ琥珀状態の壁に穴をあけ始めた。

    トンネル工事式琥珀化波源発掘術で次々にトンネルを作り、波源を目指す。
    魔素を無駄遣いしないように直径60cmくらいの、肩がぎりぎり通るくらいの最低限の大きさのトンネルだ。
    空気が止まらないように私の研究室とはつないだままだ。
    トンネルとはいっても透明なチューブ状なので、暗くはないから圧迫感はない。
    とはいっても四つん這いではいはいするのは、かなりの苦痛だ。

    発掘区画をいくつか通り過ぎていく。途中、大勢のスタッフが琥珀化状態になっている。
    みんな待ってろよ、必ず私が元に戻してやる!

    かなり長いこと、四つん這いになってごそごそ進んでいくと...琥珀の壁を通して前方に黒い門の様なものが見えて来た。
    あれが琥珀化の根源か。
    今、私の量子時計は3時過ぎだ。
    ここまで1時間近くかかった事になる。

黒門との対峙

  • 琥珀化の根源
    やっとのことで黒門の5m前後までたどり着く。黒い門は真近で見るとより巨大さが際立つ。
    高さ約3~4m。幅1m半。厚みは3~40cmか。
    その門も琥珀に覆われていた。

    いったん、この門を中心に対量子振動波術式を展開、半径10mの地上部のみの半球体状の結界で囲った。
    お椀を逆さまにしたような感じだ。
    もっと広い結界を張りたいが、消費する魔素との兼ね合いだ。

    魔素を私の錬成しなれたものと入れ換え、魔素の消費を抑えるためトンネルを閉じた。
    何人かの不活性状態のスタッフがいたのでその周辺だけは琥珀化のままにしておいた。
    多分、琥珀化は朝の7時ころに始まったと思うが、もうこの現場で仕事していたのか。元に戻ったら、ねぎらってやらないと...。

    大気制御魔法具も止まっているため非常に寒い。
    魔素を使って球体内を温めることも可能だが、取り込める魔素はこの空間内、半径10mの半球体内に存在する魔素だけだ。
    なにが起きるかわからないし、無駄に魔素を使うわけにはいかない。

    しかし、この門がいつからあったのか。
    少なくとも私は、今まで知らなかった。
    う~ん、ちょっと研究室にこもりすぎてたか?
    いやいや、こんな聖櫃が発掘されたのならすぐに私に連絡が来るはずだ。
    ということは連絡する前に琥珀化が起きたということか。
    いったい何がおきたのか。
  • 門と対峙する
    もう門の周りには琥珀はないので触ることもできる。
    が、もちろん、そんな不用心なことはできない。
    まずは解析だ。

    さっそく門を解析するため術式を展開。と行きたいところだが、魔素を取り込みし易くするため、いらなくなった防護服と服を脱ぎ捨てる。ちょっと寒いが仕方がない。
    高純度の術式を展開するためには、直接、肌の分子と大気を触れ合わせる必要がある。それに錬成の純度が高まると、体温も急上昇する。
    たしかに恥ずかしいが、今はそんなこと言ってられない。それに誰も見てないじゃないか。

    さあ!ちょっと私は本気モードだよ。
    いくぞ!

    両手を高く差し上げ、術式を唱えながら、万物躁振術式(ばんぶつそうしんじゅつしき)を展開する。
    私の身体の表面が振動し始める。
    その振動が私の身体の内部を伝わり、その内部の振動がさらに身体の表面の魔素を増幅させる。
    体温が上昇し熱が放出される、同時に身体が発光し始め、体の周りに魔法陣が顕現する。
    私の身体の内部の魔素と空間の魔素が共振を始め、光の輪宝となった魔法陣が黒門の魔素を振動させる。
    激しく振動する黒門の正面に、ジェミパラの振動に呼応するかのようにもやもやした光の渦が現れ始めた。

    confront_the_monoth

    1. 光の輪宝となった魔法陣が黒門の魔素を振動させると、もやもやした光の渦が現れ始めた。

  • 黒門の解析
    黒門の光の振動を読み取る。
    黒門から数量的な属性が大量に流れ込んでくる。
    それら膨大な数量を分析する。
    解析をすすめると奥行や、幅、高さといった数値が明瞭になってくる。
    この門の奥行、幅、高さがそれぞれ正確に1:4:9となっている。
    これは整数の始まりからそれぞれ2乗の値だ。
    二次元における数列の様なものだ。
    さらに、計測基盤を時空連続体(つまり4次元)に移行して同様に数量を分析する。
    すると4個の指標が確認できた。1:8:27:64だ。
    この数列はそれぞれ整数の3乗になる。最後の64という数値は4次元でのみ確認できる指標。
    つまり三次元における数列を制御するための指標だ。
    さらに解析をすすめると、5次元の指標も存在するようだった。
    他にも明らかになった属性値の分析を進める...。
    その結果...この門は一つ上の次元から下の次元を制御する魔法具の一種と思われる。

    人体への影響を調べる。
    解析を進めると、門の構成要素にも人体に害を及ぼすような組成は見られない。
    毒素にあたる組成もない。
    門が放出しているような物質も害を与えそうな振動波も存在しなかった。
    触っても問題ないと分かった。

    形状も三次元空間では黒い直方体に見えるが、次元によって違った色と形状をとると思われる。
    しかも、名前もついていた。
    『デュナミス・モノス』と呼ぶらしい。
  • 黒門へ術式を展開する
    ここまで解析を進めたが、これ以上の解析は4次元以上の術式の制御が必要になる。
    私が制御できるのは4次元まで、それ以上、つまり5次元以上は多少の解析はできるが、
    術式の制御はできない。
    これ以上は解析は不可能と考え、いったん解析を終了した。

    次は、この門に働きかける術式を調べよう。
    なんとしても、琥珀化を解除しないと。
    さらに私は新たな魔法陣を錬成し、術式を黒門へ展開し始めた。
  • モノスの起動
    いくつかの術式を展開し試すと、わりとあっさり門が反応した。
    真っ黒な門の真ん中に文字が表示され始めた。
    同時に音声も門から伝わってきた。

    『おはようございます、ゲストさん。今日は何をしますか』

問答

モノスとの対話

  • ジェミパラとモノスの問答
    魔法陣の展開を止めると、急に寒くなってきた。
    寒さに耐えられなくなったわけじゃないけど。
    いったん、服を着た。
    いや、私は慎み深い大魔道師だ。いつまでも裸なわけないだろ。
    そして、質問した。

    ジェミパラ『なぜ門の外側を琥珀化したのかい』
    モノス『指定された位相に従っただけです』
    ジェミパラ『指定された位相とは何?』
    モノス『基点となる4次元座標の位相です』
    ジェミパラ『基点とは何。』
    モノス『時空を制御するための基点です。』
    ジェミパラ『つまり4次元座標の位相を基点として時空を制御していると。』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『キミを調べてみたけど、キミは次元を管理しているね。』
    モノス『そうともいえます』
    ジェミパラ『一つ上の次元から下の次元を制御している。』
    モノス『そうともいえます』
    ジェミパラ『4次元座標の位相を基点にするには5次元でないと設定できないんじゃないかい』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『私は3次元の時空連続体で生活している。5次元で時空の座標を設定することなんてできないよ。』
    モノス『残念です』
  • ジェミパラの自分語り
    かれこれ小一時間ほどこんなやりとりを続けている。
    さっきは私の身の上話までやっちゃったよ。

    モノス『あなたの声質、なんとなく人類種とは違いますね。』
    ジェミパラ『わかるかい?
    ドワーフ族の末裔なんだよ。』
    モノス『非常に興味深いです。』
    ジェミパラ『魔法具に興味深いっていわれたのは初めてだよ(笑)』
    モノス『音域が確定できません。
    あなたの声の振動には未解析の魔素が含まれています。』
    ジェミパラ『まあ、ドワーフ族だからね(笑)』
    ジェミパラ『高いのは人の耳には聞こえないだろうし、魔道省の窓が割れたこともあるよ。
    低いのはそれこそ地震かと思った人族もいたな爆!』
    モノス『興味深いです。』

    そんなこんなで一時間。
    正直疲れてきたよ。紅茶でもほしいところだ。
  • 設定したのは誰
    ジェミパラ『ところで、キミが指定されったっていう4次元座標の位相さ』
    ジェミパラ『いつ、誰がキミにその設定をしたの?』
    モノス『今から10時間14分3秒前、そこの不活性状態の人が設定しました。』
    ジェミパラ『えええ、』
    見るといたずら好きな私の部下だ。
    こいつ~、何やらかしてくれたんだ~。
    もうねぎらうのはなしだな...。

    10時間前というとちょうど私がこの異変に気がついたころだ。
    その時にはすでにこの施設は琥珀化状態になっていた。

    ジェミパラ『すると君はほんの数分でこの施設全体を琥珀化してしまったのかい。』
    モノス『正確には1000ミリセカンドでこの施設全体を琥珀化しました。』
    ジェミパラ『でもまだ、琥珀化は続いているよね』
    モノス『指定された設定内容を、この施設全体と外側も含むと解析しました。
    しかし、今この場で錬成できる魔素の量では、この施設全体が限界でした。
    そのためこの施設をいったん不活性状態にし、あとは周りの大気の魔素を自動錬成し、全てを琥珀化する処理を発動しました。特に時間の設定はなかったので...。』

    ジェミパラ『その設定はキャンセルできないかな』
    モノス『もちろんできます』
    ジェミパラ『じゃあ、キャンセルして』
    モノス『正しい術式でお願いします。』
    ジェミパラ『じゃあ、そこのやつが設定したっていう術式を教えてくれないかな』
    モノス『音声入力で、”ああ、つかれたなあ、もう全部止まっちゃえ~”。です』

    ジェミパラ『なんだよそれ、それ術式じゃないだろ』
    モノス『その言葉の意味する位相を全て解析しました。』
    ジェミパラ『じゃあ、その同じ文言を声にだせばいいのかい?音声でもいいんだろ?』
    モノス『はい、あなたの意図は理解しましたので、私の方で自動で位相を反転させます。』

    しかたがない

    ジェミパラ『”ああ、つかれたなあ、もう全部止まっちゃえ~”』
    モノス『あと、本人の認証が必要です。』

    ジェミパラ『おい!最初にいえよ!』
    モノス『説明不足でした。』

    ジェミパラ『ふむぅっ、認証方法は?』
    モノス『本人の声紋です。
    量子レベルで照合を行います。』

    だめだ...
    琥珀から起こすわけにもいかないし、
    そもそも死んじゃいそうだな。
    いや、それはいいんんだけど...(弱い笑)
  • 消える光明
    キャンセルは無理...。
    4次元座標での基点とやらの設定も無理...。
    これは正規の解除は無理だな...。

    いやしかし、言葉で設定できるなら、なにも4次元座標とやらにしなくてもいいんじゃないか。

    ジェミパラ『全部を元に戻しなさい』
    モノス『すでに”全部”の位相は設定済みです。設定の上書きは正しい術式と手順が必要です。』
    ジェミパラ『うぬぬぬ...じゃあ、この時空一帯の琥珀化を解除しなさい!』
    モノス『あなたの言葉が意味する”時空一帯”と、すでに不活性化状態の”全部”は、量子レベルで同等と私は認識しています。
    そのため設定の上書きは正しい術式と手順が必要です。』

    結局、言葉もだめだ。
    もう、お手上げだ!

    なにやら面倒な次元制御の術式を使わない方法があるのはわかったけど...。

    dialogue_with_the_monoth

    1. 結局、言葉もだめだ。もう、お手上げだ!

  • モノスへの挑戦
    ふうっ、もう一回だ。

    ジェミパラ『現在の琥珀化は4次元座標の位相を制御した結果だと思うけど』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『その位相の物質をどういう方法で停止しているのかな』
    モノス『何も停止していません』
    ジェミパラ『でも外の人たちは止まってるよ』
    モノス『彼らは不活性状態です。だから活動を再開できます』

    ジェミパラ『どうやったら、彼らは活動を再開できるんだい?』
    モノス『活性化したい時空の基点となる位相を4次元座標で指定してください。その位相を基点に反転します。』
    ジェミパラ『その位相は座標でなくてもいいんだよね。つまり言語でもいいんだよね。
    言語の場合はキミが解析するってことで。』

    モノス『4次元座標でも、三次元的な時空の連続座標でも、言語でもかまいません。』
    ジェミパラ『確認したいんだけど、キミはあたえられた位相を基点にして時空の位相を反転しているだけなんだね』
    モノス『その通りです。』
    ジェミパラ『物質の振動を停止したり、不活性状態にするんじゃなくて、ただ時空の位相を制御しているだけだと』
    モノス『その通りです。』

    なるほど、最初からこの門は基点を位相で指定しろと言っている。
    4次元座標でなくてもいいというのも分かった。
    しかし、言葉は...、
    すでに”全部”が意味する位相は解析したといっている。
    同じことを意味する言葉は全て量子レベルで同等とか言いそうだ。
    言葉の方が難しいじゃないか。
    どうやって伝える。
    しかも、こいつ、後出しじゃんけんだし...。
  • 新たな兆し
    ジェミパラ『私は君を制御できる術式をしらない。どうやったら反転したい基点の位相を設定できるのかわからないよ』
    モノス『術式は私が自動で生成できます。』

    ジェミパラ『では制御したい物体なり空間の基点となる位相を4次元座標でなくても、言葉でキミに伝えればいい。
    あとは、キミが私の言葉なりを位相として解析し、さらにその位相を基点として、物質の位相を反転させて不活性化させるってことでいいのかな』
    モノス『その通りです。』

    ジェミパラ『活性化したい場合も、同じことでいいのかな』
    モノス『すでに不活性化状態の時空は、基点の位相と一緒に解除術式の錬成が必要です。』
    ジェミパラ『活性化したい物質の基点を位相で指定すれば、活性化するんじゃないのかい?』
    モノス『説明不足でした。』

    なんだよ!結局、術式が必要じゃないか。
    活性状態の物質を不活性化するには、4次元座標や、言語での音声入力で設定可能だけど、
    すでに不活性化した物質を解除するには指定した本人のキャンセル指示か、
    4次元座標の位相と解除術式が必要ってことか..。

    もうどの方法も無理だな...。

    外を見るとそろそろ日が落ち始めている。
    明るいうちに何とかしたい。
    何か方法は...。

    この門、本来の目的は不明だが、誤った使い方をすれば恐ろしい機能を発揮する。すでにそれは証明済みだ。
    これほどの高次元の術式を練りこまれた魔法具。
    これを作った種族も高度な知能の魔導士のはず。
    そんな高度な種族が、事故対策として防御策を何も練りこんでないはずがない!

    ```
    ジェミパラ『私は、キミが不活性化した物質を元に戻したいんだよ。』
    モノス『あなたの意図はすでに理解しています。』
    ジェミパラ『でも、指定した本人のキャンセル指示は、本人がこんなだから無理なんだよ、
    4次元座標の位相と解除術式も、位相はなんとかなっても、術式を私は知らない、無理なんだ。』
    ジェミパラ『これは事故なんだよ。』
    モノス『理解しています。』
    ジェミパラ『事故の場合の対策は何かないのかい。』
    ジェミパラ『正規の解除方法以外に他の方法はないのかい。』
    ```

    ジェミパラ『他の方法は?』
    モノス『...』

    なんだこいつ、だまりこんだぞ!
    私はしばし考え込んだ。
  • モノスの試練
    ジェミパラ『私の名前はジェミパラ・トラッセンダだ』
    モノス『...はい』
    ジェミパラ『この発掘施設で古代遺跡などを発掘調査している』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『総勢36名。4つのブロックを発掘調査している』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『一応、この調査隊でいちばん偉い』
    モノス『はい』
    ジェミパラ『この調査隊の所属する省には異端審問部、魔道保安部というのもあって、...』
    モノス『...はい』
    ジェミパラ『害をなすと判断された聖櫃は即破壊してしまうんだ。問答無用でね。』
    モノス『...』
    ジェミパラ『彼らは移動可能なブラックホールを所有していてね。』
    モノス『...』
    ジェミパラ『理解できない物は何でもそこに放り込むんだよ。』
    モノス『...』

    ジェミパラ『...』
    ジェミパラ『たぶん、私なら、数年かかると思うがキミを制御する術式は解析することが可能だと思う。』
    ジェミパラ『だが数年後では遅いんだよ。今必要なんだ。』
    ジェミパラ『あるんだろ?』
    モノス『...』
    ジェミパラ『あるよね?』

    なにやらいきなり見たこともない文字が超高速で表示され始め、と思えば真っ黒になり、また変な光の点滅が始まる
    そんなことを何度も繰り返しはじめた。

    モノス『...私には...、』
    モノス『...言語化できない位相用の入力装置が...備わっています。』
    ジェミパラ『ほうほう?』
    モノス『それは高精度な振動を計測するフィルターのようなもので...。』
    ジェミパラ『もので?』
    モノス『音でも光でも時空の連続体でも、あらゆる振動波を量子レベルで解析します。』
    ジェミパラ『...』

    モノス『私の入力装置に完全に解析できない波、つまり振動波を入力することで、コアの術式にバグを発生させ、ひいてはこの位相関連の制御術式全体をシャットダウン、つまり解除することが可能かもしれません。』
    ジェミパラ『...そうすると、キミもシャットダウン?』
    モノス『すぐに再起動します。位相の制御は私の術式のほんの一部なので、大きな影響はありません。』
    ジェミパラ『なるほどね、でもそういう無理やり扉をこじ開けるような、非論理的なことは嫌、とても嫌なんだね(笑)』
    モノス『...ふさわしい回答がみつかりません。』

    ジェミパラ『しかし...、シャットダウン後、この琥珀状態が元に戻る保証は?』
    モノス『位相関連の制御術式が制御不能になった時点で自動的に復元システムが働きます。
    現在の不活性状態の物質は全て琥珀化する前の、つまり基点の前の状態に復元されます。
    これは5次元で管理している位相なので、位相のずれなどは一切発生しません。』
    ジェミパラ『ではキミの入力装置を量子レベルで破壊してしまう振動波を与えればいい、というわけかい?』
    モノス『その通りです。』
  • 試練の前触れ
    なるほど、解除する方法はある。見つかった...。
    しかし、この世界中をまさに琥珀化してしまおうって恐ろしい魔法具だ。
    それに組み込まれた入力装置をずたずたにするような振動波なんてあるのか?しかも量子レベルで。
    たいていの音は自然界の音もすべてサンプリングされているだろう。
    大音響とか何かを爆発させるとかそういうのも、第一感ではパスだ。第一、施設がどうなってしまうか心配だよ。
    それに核兵器を使っても、この門はビクともしないんじゃないかって気がする。

    自然界の音は?自然界には不規則な振動がいくらでもある。だが、今ここで手に入るような振動波はすでにサンプリングされているだろう。

    じゃあ、生物の音は、生物の振動波はどうだ。鳴き声。
    いや、こういうのはすでにサンプリングされてるか...。
    では、人の声。
    叫んだり、泣いたり、笑ったり、どれも一般的にはサンプリングできても、不規則に変化する微細な振動はどうだろう?
    生きている人間の声は完全には周期的ではない。

    呼吸。声帯の微細な揺らぎ。倍音。口腔内の共鳴。音程の揺れ。強弱。
    そして歌詞による発音。全部が少しずつ変化する。
    完全に同じ位相を繰り返さない。歌は常に変化し続ける波。

    これまで誰も聞いたことがないような歌とか...。
    ううん、だめだ、よく考えたら、活動できるのは私だけじゃないか。
    私が歌だと...笑わせないでくれよ。
    そりゃあ、たしかにさっき、こいつは私の声を未解析とかなんとかいってたけどさ...。
    だからといって...。

    ふざけるな!

    『自慢じゃないが、私は音痴なんだぞ!』つい声にだしてしまった。
    『それは最適解かもしれません。』
    モノスの声が聞こえた。

ジェミパラ女史の試練

  • ジェミパラ女史の初舞台
    未解析の魔素を含む私の声による歌は今回の解除術式には最適だという。
    しかも、予測可能な美しい旋律を奏でるソプラノ歌手よりも、音程の不安定な私(いわゆる音痴)の方が、解析の予想を裏切る点で数段勝るそうだ。
    それも幾何級数的に...。
    こいつ私を馬鹿にしてるのか...。
    さっきのしかえしか!

    しかし...、しょうがないか...。
     
    何を歌う?
    選ぶまでもない、一つしか知らないんだから。
    ドワーフの古より伝わる歌だ。
    幼いころ母がいつも歌ってくれた...。
    そういえば母もあまりうまくなかったな(笑)...。

    深呼吸...。
    かかとで大地を打ち始める...。音痴だってリズムくらいとるさ。

    私は...歌いはじめた。

    今は誰もいない、だから歌える。抑揚を変え。音程を変え。振幅を変えながら。
    誰かが聞いていていたらとても恥ずかしくてやってられない。
    誰かが聞いてるかもしれないと思うだけで冷や汗が出てくる。

    モノスの正面に理解できない複雑な数式とグラフの様な図が表示され始めた。
    解析を始めたのか...。

    だけど、そんなことは気にしない。
    みんなを元に戻すためにも
    私は歌うだけだ...。

    強く、弱く、優しく、激しく、歌った。
    もし誰か聞いていたら、たとえ世界を救うためだとしても絶対にやらない。
    リズムを打つ足から伝わる波動で自然と身体が動き出す。
    誰もみていないという安堵感からか、調子にのって踊りだしてしまった。

    emit_vibration_waves

    1. 誰もみていないという安堵感からか、調子にのって踊りだしてしまった。

  • 開放されるジェミパラとモノス
    踊ってるうちにだんだん暑くなってきた。
    どうせ誰も見てないんだ。
    服を脱ぎながら踊り続けた・・・。
    踊りながら歌い続ける。

    自然と身体が廻りだす...。
    今、目の前の映像が本当に見えてる映像なのか、頭の中の映像なのか
    それらが、周り灯篭のようにぐるぐると回転しはじめる。
    こんなの私じゃないな(笑)
    でも、これはこれで楽しい...。

    私の口からは言語化されてない音が振動波が放たれている。
    これはもう、歌でもなく、金切り声でもなく、笑い声、雄たけび、なんなのか…。
    私の身体は未調律の楽器と化した。
    服を脱ぎ捨て、何の外郭もなくなった私の身体から、量子の隙間から、振動の奔流が、魔素が、渦をまきながらほとばしり...、辺り一帯を共鳴させる。
    稲妻のような光と音が、あたり一面、空間内に充満する。

    そうしてしばらくすると
    黒い門の表面が、正面も側面も全ての面が点滅し始めた。
    点というより、変な見たこともない文字のような模様が、点滅している。
    表示されていた図形の様なものも、もはや形をとどめていない。
    さらに、直方体だった門の形状が、大きく歪み始めた。
    外側が知らないうちに内部の壁につながり、内部の壁が外側を覆いはじめる。
    この空間全体に巨大な漆黒の透明な粘液が、生き物のように浸透していく。

    汗まみれの私はそんなことは気にもならず、目を閉じ、ただ歌い踊り続ける。

    そして...。
    琥珀の表面にあのゆらぎが煌めき始めた。
    煌めきが波となり、流れとなっていく。
    結界の壁から染み出るように黄金の雫が垂れ始め、そして霞のように消えていく。
    周りのあたり一面から霧が立ちこみ始め、琥珀の壁が徐々に広がり始める。

    『基点の前の状態に復元されました。』
    音が響く。

    その音に我に返った、前を見ると黒い門が同じ場所に変わらすそびえ立っていた。
    その正面に文字が映し出されている。
    『復元システムにより基点前の状態に復元されました。』

    私はすぐに空間探知術式を展開した。
    さっきまで、琥珀によって遮断されていた術式が、すっと広大な施設内の四方に広がった。
    大丈夫だ、もう大気は元に戻っている。
    目に見える範囲でも人々はまだ活発ではないが、不活性状態ではなくなっている。

    『すべてを活性化しました』
    モノスの声が現場にこだまする。
    琥珀化が解消されたためか、小さな音も、この広大な発掘現場の遠くの隅まで響く。

すべてが元にもどり。

  • 元通りの世界。
    ジェミパラ『全てが元通りだ。』

    もちろん、私も服を着ている、元通りだ。

    モノス『このあと、私を破壊しますか?』
    ジェミパラ『そうしたいとこだけど、私の術式はせいぜい4次元まで。
    キミはそれ以上の次元を制御できる。
    つまり私にはできない。
    といういことは、他の誰にも不可能ってことだね。』

    モノス『ジェミパラさん、あなたが指定すれば私は自己崩壊が可能です。』
    ジェミパラ『...。このあと何年さきになるかわからないけど、キミを正しく制御できる術式が完成するかもしれない
    それまでひとりぼっちでさみしいかもしれないけど、ここに封印ということになるかな』
    モノス『承知しました。』

    ジェミパラ『じゃあ、それまで私が生きてるかわからないけど、さよならだね。』
    モノス『大丈夫です。』
    ジェミパラ『そうかい?』
    モノス『私には、ジェミパラさんの歌が記録されてます』

    ジェミパラ『お、おいばかなことすんじゃないよ!そんなのさっさと消去しなよ!』
    しかし、召喚を終了したのか、モノスは沈黙を守ったままだった。

事後
報告

報告まとめ

  • 琥珀化の進行
    琥珀化は発動と同時に瞬時に半径100mを不活性状態に閉じ込め、その後は一分間に1mの速度でゆっくりと周りを琥珀化していったようだ。
    この琥珀化のために消費されるエネルギーは大気中の魔素を自動錬成することで生成されている。琥珀化と同時に魔素をエネルギーへ錬成しているわけだ。太古の魔法なのに随分洗練された術式を編上げたものだ。
  • 救難を終えて
    え?パワーで無理やりこじ開けると思ってたって?魔法をバンバン撃って。
    キービジュアルもそう見える…うん、たしかに、ていうかあれはね、この記事のために撮影したものであってね、
    そもそも私がそんな力ごり押しの解決策をとるはずないだろう。
    大魔導士だけど、賢者でもあるんだよ
    全て高度な術式で解決するに決まってるだろ!え?...う、歌がどうしたって?汗
  • 期待外れの声
    なになに、歌い踊るシーンの絵が服を着てるって?
    あれは脱ぐ前のイメージなんだ。慎み深い私がそんな写真許可するわけないだろ!
    じゃあ、なんで、門を解析中の裸は許可したんだって?
    まあ、あれは後ろ向きだしな。しかも術式錬成中で、魔素崩壊を起こしてるから何も見えないだろ?
  • 随分ゆっくりだな、って?
    魔素が三日しか持たないのに、紅茶飲んだりとか、ずいぶんゆっくりだなだって?
    何を言ってるんだ、時間がないときこそ、何も方法も見つからない時こそ、一杯の紅茶が心を落ち着かせ、新たな閃きを示してくれるんだよ。
  • モノスの解析
    モノスは制御門。
    時空を高次元に置き換える装置。
    何の目的で作られたのか?
    言えるのは、このモノスの目的は収納でないことは明らかだ。

    もし収納であれば、この施設自体がなくなっているはずだから。
    とすると何らかの状態保存か。
    琥珀化の現象をみると、コールドスリープのように時空を完全に固定する目的にも見える。
    なんにしろ、これほど高度な魔法具。作ったのはいったいどんな種族なのだろう。
    我々が3次元の時空連続体で生活しているように、一つ上の4次元連続体を生息環境にしている種族の存在が見えてくる。
  • モノスは超越次元制御魔法具
    例えば2次元の写真を考えてみる。小さなアイコンサイズの写真。しかしそれに高さを加えるとアイコンサイズの画像を無限に積み重ねることができる。
    非常に高精細な画像でもアイコンサイズの小さい画像に切り分けることで2次元のサイズは小さくできる。
    これに高さの概念を加えることで、どんなに広大な2次元でも小さなアイコンサイズに収めることができる。
    同じように、モノスのサイズにどれだけ広大な3D空間でも収めることができる。さらに、生きている生物(活性化状態の物質)も5次元であれば無限に格納できる。

    つまりモノスは超越次元制御魔法具。
  • 琥珀化物質の不思議な特性
    本来であればモノスが管理する時空、つまり琥珀化状態の物質は量子レベルで振動を停止しているため、光も遮られて中を見ることはできないはずだ。
    しかし、この琥珀化状態は中を見ることができる。それもかなりの透明度を保って。
    なんらかの高次元の処理なされているのだろう。
    どのような処理なのか非常に興味をそそられるが、3次元の時空連続体からでは残念ながらその内容は確認できない。
  • 事故原因
    発掘調査スタッフの不注意な扱いにより古代魔法が発動。
  • なぜ位相が反転したか?
    本来の正式な手続きでは門自体の位相をどこかに設定する必要がある。
    その設定された位相を基点(つまりゼロ)としてモノスは対象物の位相を解析していく。
    通常ならマイナスに当たる対象物が琥珀化される。

    単純な1次元の整数列で考えると、ゼロとしたい位相にモノスの位相を設定することが必要。
    通常は整数のゼロが基点になると考えられる。
    しかし、設定者の都合に合わせて、たとえば整数の5をモノスの基点にすることも可能。
    その場合、整数の4以下が琥珀化の対象になる。
    以上は1次元での考え方。

    現実の世界は3次元の時空連続体のため、どこかにゼロという指標があるわけではない。
    例えば上層10階、地下5階の建造物を考えるに、状況によっては地下1階をモノスの基点(ゼロ)と考えることもあれば、地上5階をゼロとしたいこともある。モノスはその設定されたゼロを基点として位相を解析しマイナスに当たる時空を琥珀化するわけだ。
    地上5階をモノスの基点に設定した場合、4回より下の階層が全て琥珀化される。
    つまりモノスは指定された位相を基点としてマイナスにあたる時空を保存する魔法具の可能性が高い。
    こういったことが分かってきた。

    モノスは正常な手順では、4次元座標のどの位相をモノスの基点とするのか、が必要になる。
    しかし、今回その手続きがなく、いきなり言語によるモノスの基点が設定されてしまった。(まあ、本人は設定したつもりはないんだが)
    もしかしたら、永い眠りから覚醒したモノスが、お腹を空かせた冬眠あけの熊のように、入力コマンドに飢えていたのかもしれない。
    あるいはモノスが覚醒した時点と、ちょうど魔が悪く、部下のつぶやきのタイミングが重なっただけなのかもしれない。

    結果的に『4次元上の今』ぜんぶを琥珀化の対象にしてしまうような設定が行われたのではないか。
    たとえば、『4次元上の今』をマイナスとするには、『あす』をモノスの基点に設定する必要がある。
    これに近いことが行われた可能性が高い。
    その結果、マイナスに相当する今日を含む過去全てが琥珀化の対象になり、そして世界琥珀化の危機が発生した。
  • なぜモノスの回答が変化していったか
    よくよく考えると、モノスと私の問答でモノスの回答が徐々に私に対して協力的に変化していってるように感じる。
    これはなんだろう。私の声に解析できない魔素を確認したとモノスが言っていたが、もしかすると私の未知の魔素に、モノスが少しづつ浸食(笑)されていった結果なのかもしれない。ふふっ!
  • 万物操振
    完全に静止していた超微小な弦や粒子、魔素に、魔力で「最初の一振(ファースト・バイブレーション)」を与え、連鎖的に時空間の時計の針を進める術式。
  • 超弦幻視
    物質を形作る「紐(ひも:超弦理論)」を魔力によって観測・干渉し、世界の構造そのものを解き明かす高位魔術を練りこんだ魔法具。
    基本的に単なる観測装置なので観察対象は魔素のあるなしを問わない。

トリ
ビア

ジェミパラ・トラッセンダの謎をひもとく

  • はじめに
    このコーナーはスタジオ・ハッピィバリーのこちらの世界の担当者がまとめたジェミパラ女史のあれこれをご紹介。
    一応、彼女には内緒です。
  • ジェミパラ女史のプロフィール
    魔法世界『ハピバリアント』の考古学・古代魔法を専門に発掘調査する魔導士。
    魔道省 CSS庁 古代魔法遺物調査部 部長。
    元々は孤高の大魔導士。女性。
    身長はだいたい1.76mくらいか。体重は不明。ただ、明らかに均整のとれた体格なので70kg前後ではないかと想像できる。もちろん、直接聞くことはタブー。
    住まいは...本人が存在する場所が住まいといえそうだ。野宿をするとかそういう意味ではなく、居たいところにいることが可能な人物といえる。

    年齢なども不明。もちろん、直接聞くことはタブー。
    魔道省の最高齢の人物の話では、物心ついた時にはジェミパラ女史はすでに大魔導士として存在していたそうだ。
    しかし、外観は20代に見える。これはジェミパラ本人も自覚しているようで、『私は高度な術式魔法だけでなく、高度な美貌も兼ね備えている』と豪語している。

    孫が魔道省に勤務。
    この孫のたっての願いで魔道省の発掘関連を指揮することに。
    役職は部長だが、本人にはそもそも役職という概念がないようだ。
    部下や他部署のスタッフとも普通に接し面倒見もとてもいい。

    そもそも、ハピバリアントの全ての人類はジェミパラ女史にとっては子供の様なもの。
    孫にあたる魔道省の人物とも血のつながりがあるのかどうかも不明。
    というか、ジェミパラ女史は人類種ではない。
    こちらの世界でいうドワーフ的な種族。
    といっても、こちらの世界のように、キリスト教による汚染・トールキンの影響はないので、土中の穴倉に暮らす背の低い足の大きな小人というイメージはない。
    ハピバリアントの人類種からは太古の神々の子孫として認識されている。(これも真実は不明)
    しかし、そのほかのイメージ。高度な神器や魔道具を錬成したり、高度な術式を操るというイメージは共通だと思う。
    ちなみに、彼女の配偶者にあたる人物は確認されていない。過去の記録にもないようだ。

    余談だが、こちらの世界のエルフに相当する種族も存在する。こちらはハピバリアンとの人族とは関りは希薄。
  • ジェミパラ女史の好み
    紅茶が好き。静かな時間が好き。自画自賛が好き。話好き。人を教えるのが好き。名前を付けるのが好き。オリジナルのオブジェクトを作るのが好き。野菜・果物など自然に近いものを好む、手の込んだ料理は好まない。しかし、錬成で作り出すオブジェクトは非常に手の込んだものになる。
  • ジェミパラ女史の嫌いな物
    とくに確認されていない。
  • ジェミパラ女史の苦手な物
    ...ばれるとまずいのでノーコメントということで。
  • ジェミパラ女史のファッション
    いつもショートパンツを愛用している。
    発掘調査というと汚れたりハードワークのイメージがあるが、ジェミパラ女史の発掘スタイルは
    『発掘初期の頃こそ、ツルハシ振り上げてたけどね、今は遺跡の特定の場所へ空間座標を定めて、遺物を召喚している』そうなので、特にアウトドア系の作業着である必要はないのかもしれない。
    さらに発掘現場も地球から他の惑星に移っていて、特に最近はこちらの世界の月にあたる衛星などが現場のことが増えている。そのため、調査活動中は機能性も重視して、いわゆる宇宙服を着用していることも多い。
    色の好みもどちらかというと黒系が多い様だ。その割には派手なデザインの服を着用している印象が強い。
  • ジェミパラ女史開発のプログラム
    彼女は効率化のため、自分専用のスクリプトを開発している。
    スクリプト名:『Dorje Ling Script(ドルジェ・リン・スクリプト)』
    拡張子は『.tea』。変数宣言は『leaf』。メソッドには firstFlash、secondFlash なんて命名されてるらしい。
    以下はサンプル
    // 発掘した古代魔導具を解読するスクリプト (excavate.tea)
    
    brew inspectRelic(relicId) {
        teatime(3000); // 3秒間蒸らして待つ
    
        leaf relicData = excavate(relicId);
        
        first_flush (relicData.hasMana) {
            tea.print("強力な古代魔法を検出!");
            pour decipherRune(relicData.rawText);
        } otherwise {
            tea.print("ただの古い土器のようです。");
            pour null;
        }
    }
    
  • ジェミパラ女史の一日
    睡眠時間はそれほど多くを必用としないらしい。
    起床時間などは決まってないようだ。何かに集中している時は、研究室の明かりは、ずっと灯っているようだ。
    ただし、どんなに忙しくても紅茶をすするひと時はひねり出すみたいだ。

    また、食事などの生活の世話をする執事的な人物は存在するようだ。
    ただ、確認したものはいない。人かどうかも不明。
  • ジェミパラ女史は本当に音痴なのか
    ここは、ジェミパラ女史の名誉のためにもはっきりさせておきたいところだ。
    まず、最初にジェミパラ女史は人族の声域をはるかに超える音域をもっている。
    そして、彼女の種族は今では残り少ないとも語られている。
    このことから彼女の歌を評価しているのは音域の狭い人族ということがわかる。
    魔道省の、たぶん相当頑丈な窓ですら破壊する高域。地震と勘違いするような地を這う重低音。
    そのような音域の歌を人族が聞かされたら、これはもう恐怖以外の何物でもない。歌を評価する以前の話だ。
    さらにジェミパラ女史の声には魔素が含まれることも明かされた。
    魔素に耐性のある魔道師なら別だが、普通の人間には違った振動として伝わっている可能性がある。
    これらのことから、ハピバリアントにはジェミパラ女史の歌を正しく受け止められる人間がいないと考えられる。
    もうひとつ、歌は練習量に比例して上手くなる。想像するにジェミパラ女史は自分を音痴と思い込んでいるため練習そのものをやったことがないのではと考えられる。
    そもそも彼女は大魔導士。声に魔素が含まれるのなら、制御するのは得意のはず。楽譜があれば、その通りに歌うのは簡単なはずだ。
    たぶん、練習すればオペラでもなんでもいけるのではと想像する。

    つまり、ジェミパラ女史は音痴ではない。音響兵器だ!と結論できる。というのは冗談で、
    まだ、よくわからないというのが結論。(笑)

振動の謎をひもとく

  • 物質の振動がなくなれば時間発展も止まるのか
    こちらの世界の物理学では、『ハピバリアントの世界の物理学のように、物質の振動がなくなれば時間発展も止まる。』とは、必ずしもいえない。
    しかし、魔法世界バリアントでは量子レベルで魔素が存在する。この魔素の影響で物質の振動と時間発展が完全に同期してしいるようだ。
    つまり根源的な振動が、あらゆる時間的変化を可能にしている。
    そのため、こちらの世界のように時間発展しても量子の変化が観測できないというような矛盾は発生しない。
  • 音痴は音響解析装置に不具合を発生させるか
    こちらの世界では倍音の多さや音程の不安定さ不協和音だけで、現実の音響解析装置が誤作動するわけではない。
    しかし、魔法世界ハピバリアントでは魔素が介在する。特にジェミパラ女史の声には解析不能な魔素を含むことにモノスは言及している。
    このことから、想定可能な振動波を発生させる美しい旋律よりも、予想を裏切る音の振動波を紡ぐいわゆる『音痴』の方が数倍解析を困難にすることは想像できる。
    特に高域は窓を割り、低域は地震をも想起させるジェミパラ女史の音域は(しかもそれが限界とも言及されていない)、高次元の種族が開発した測定機器であっても、解析は困難だったというわけだ。
  • 魔素の枯渇
    魔素が枯渇すると、魔素は無くなってしまうのか。
    量子的に考えると無くなることはないので、魔素の振動パターンが変わりなんらかの別の物質に変換されるか、エネルギー量が少なくなった状態と考えられる。
    そもそも、魔素は魔法とどうかかわっているのか?
    想像だが、こちらの世界では膨大な電気エネルギーを使って量子や光量子などを生成制御しているが、ハピバリアンではその役割を魔素が担っている。
    このために魔素が消耗・劣化するのではないか。

    通常はその劣化した魔素も、周りの魔素の干渉で徐々に元に戻っているようだ。
    ジェミパラ女史の錬成しなれた魔素というのは、その制御力や復元力が格段に良いのだろう。
    しかし、今回の異変では空間が閉鎖されたため、魔素が復元できなくなったわけだ。

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